日本実験動物科学技術大会2001」を主催して
―その意図と問題―

大会長 前島一淑(慶應義塾大学医学部)

〔A〕はじめに

 (社)日本実験動物学会(学会)の第48回総会長委嘱を契機に,学会を含むわが国の実験動物界全体の求心力と活力を呼び戻すため,学会,日本実験動物技術者協会(実技協),日本疾患モデル学会(モデル学会),日本実験動物医学会(医学会),日本実験動物環境研究会(環境研),LECラット研究会(LEC研),日本実験動物飼料協会(飼料協)の共催による日本実験動物科学技術大会2001(大会)を企画し,(社)日本実験動物協会(日動協),日本実験動物器材協議会(実器協),日本実験動物協同組合(組合)の後援を受けて,平成13年5月8〜12日の5日間を費やし横浜市において成功裏に大会を開催することができた。
 大会参加登録者は海外からを加えて1,200人(招待者ならびに開催支援者を合わせれば1,400人)を越え,100社を越す企業から協賛金,広告掲載,商品展示,製品寄付等の協力を受けた(企業名は大会講演要旨集に掲げてある)ことは,日動協機関誌「LABIO 21」第5号(2001年6月)に報告したとおりであるが,改めて,関係各位,各社にお礼を申し上げるとともに,大会の意図,実施上の問題,今後の課題を纏めた。

〔B〕第1部:大会の企画と実施

 企画意図

 数え方によって異なるが,昭和26年設立の実験動物研究会を源流とする実験動物関連団体は20余あり,大会共催の7団体と後援3団体の重複を承知で単純合計すれば会員と企業は4,000人,300社である。これは大所帯と思われるかもしれないが,かつて日動協から実験動物の適正生産価格の試算を依頼された山梨大の常秋教授によれば,日本の実験動物産業の規模はホーレン草農家のそれよりも小さいという。
 このように小規模なわが国の実験動物界においては,たしかに各団体の設立の趣旨や個々の会員の活動には微妙な相違はあるけれども,20余の団体に重複所属して少しづつ異なる分野で活動を進める必然性は少なく,また非能率だと私は考える。多くの人が指摘するように,学会,実技協,その他の学協会が別々に集会を開催することは,参加する者も派遣する立場の側では二重三重の手間で,寄付を求められる側の負担も大きい。
 かなり以前に,都老人総研の朱宮先生たちと「実験動物界の統合」を提案して検討を始めたことがあったが,多数の総論賛成を得ながら,過半数ではないが極端に少数でもない数の各論反対があり,作業を中断したままになっている。その時,それぞれの設立趣旨と運営実績をもつ諸団体をいきなり統合することは困難であっても,総会等の集会を合同開催することで,諸団体間の協調が進むのではないかという感想を私は抱いた。

 合同開催合意と作業開始

 そこでまず,関係者から忌憚のない意見を伺うため,平成11年2月8日に表1(A)に掲げた方々(代理出席,役員交代,追加参加等で経過とともに顔ぶれに変更あり,また,その他の委員会メンバーについても同様に変更あり)にアニマルケアに集まって頂き,会議は数回開催された。その結果,参加者から否定的な発言はなく,大会開催に向けて第2段階に移行することができた。
 産医研の三枝先生を長とする大会企画委員会(表1(B))を発足させ,その具体化にとり組んで頂いた。大会準備作業に入ると,なにしろ初めての試みであるから当然のことであるが,細かな点でさまざまな問題が生じてきた。その間題点については,大会終了後の平成13年6月8日に開催された関係者による「反省会」の記録を纏め,第2部として紹介する。
 諸団体にはそれぞれの事情と思惑と慣行があり,準備委員会での合意事項がそれぞれの団体にもち帰った後で一部から再検討を求められる事例もあり,とくに予算と経理に係わる問題の解決には手順を要した。しかし,結論からいえば,総論(原則)賛成の前提の下で各論(問題)の解決を図るというありきたりの方針を貫くことで多くの問題は解決できた。
 大会準備に係る大きな問題の1つは開催経費で,財務委員会(表1(C))を設置して,日本医科研の日蜴ミ長に委員長をお願いした,日柳委員長は大変に熱心に寄付活動をして頂いたため,寄付を求められた側に迷惑をお掛けした事例もあるが,それは私の責任である。
 この他,プログラム編成委員長を横浜市大の木内先生,展示委員長を実器協の原会長,50年資料収集委員長を都老人総研の朱宮先生,海外協力委員長に感染研の浅野先生にお顧いした。さらに,大会当日の会場係には実技協ならびに学会関係者に特別の協力を頂いた。それぞれの方々の名前も一括して表1に掲げておく。いうまでもなく,この表に載っていない方々でも,陰になり日向になって大会の準備と開催に献身的な協力をして下さった方々は多いが,限られた紙面で紹介しきれない。心からお礼を申し上げる。
 上述したように,大会関係者が集まってどういうところに問題があったかをフランクに話し合い,個人名を略して発言を以下に箇条書きにした。なお,反省会の焦点は,7団体共催,3団体後援という大会形式についての問題に絞った。反省会の参加者は,安居院,荒巻,大和田,日蛛C朱宮,三枝,瀧澤,原,福田,前島,三宅,横田の12名である。

〔C〕第2部:大会運営の反省

 総合的評価

 *最近の実験動物界がマイナーになってきたとの印象があり,展示出資のメリットが感じられなくなってきたが,今回のように大規模な集りであれば参加者数の増加が見込め,宣伝効果が上がると期待できた。しかも年に1度で済むので手間も経費も減らせるメリットがある。今回の形式を今後も継続してほしい。
 *器材展示はきれいに纏まり,規模が大きかったので人の集まりもよかった。器材協が学会や実技協の総会運営に踏み込んだ形で参加して内側から眺めることができ,いままでになく盛り上がった。
 *LEC研は,例年の集会と同時期に大会がありスムーズに参加できた。きわめて盛会であったので来年の学会第49回総会にも参加したい。しかし,分野が重なる組織が一緒に活動すると,その存在意義が失われてしまうという懸念もある。毎年,大会形式で開催していくと弊害が出てくるかもしれない。
 *環境研は,従来から学会,実技協と一緒に集会をもってきた。今回は,さらに多くの団体と共催したことで参加者が増え,活性化された。
 *実技協の独自性を打ち出していくためには,共催の形式を取り互いに刺激していくことが望ましい。学問の求心力という点でも,各団体の競争意識が働いて活性化されたと思う。細かい点について改善の余地はあるが,おいおい解決して行けばよい。今回の形式がベストかの判断には時間を必要とするが,意義ある大会であったことは間違いない。
 *飼料協としては,共催という形で参加することができ,大きな発表の場が得られてよかった。合同開催のため経費,寄付の負担が節約できたという面もあり,今回の趣旨に賛同する。今後も大会形式の企画があった場合は声を掛けて欲しい。
 *医学会セミナーは獣医学会時に開催が慣例としてきたが,予想をはるかに越える参加と発言があり医学会活動の啓蒙に役立った。また,獣医学会に参加できない会員から,学会や実技協の折りの開催希望が少なからずあった。
 *実験動物界の再構築の過程として今回の大会を位置付け,今後に繋げていくことを希望する。

大会趣旨の周知と大会形式

 *大会開催の趣旨と内容についての事前の根回しがやや足りなく,もう少し時間を掛けて合意を深め基盤を固めてから開催すればよかった。とくに,学会の常務理事会では事前説明が十分でないという意見が出た。その他の組織にも趣旨が十分に伝わっていなかったようである。
 *学術団体と業界が切り離されていることの懸念もあり,従来の形式を崩して新しいものを作り上げる試みをしなければなにも始まらない。根回しに時間を掛けても賛否両論の議論が続くだけで,結果は同じだったのではないか。
 *学会総会長が大会長を兼ねたためにどちらの立場を優先すべきか迷いが生じた場面があった。大会長には専任の者を選ぶべきだったかもしれない。
 *各団体の単独開催ならば小回りが利き,ボランティア的作業が進められる場合もあって予算を抑えられ,参加費を安くしたり,余剰金をもっと出せる等の可能性があったが,共同開催のため,各団体のそれぞれの思惑,事情を大会として個別に配慮できなかった。
 *単独開催のほうが予算的に余裕を出しやすいが,共催形式では個々の組織の影が薄くなり,経理上のデメリットがあるという指摘もある。
 *事務局を個々の団体に別々に置いて(慣例や個別事情に配慮して)処理することも考えられるが,経理等の窓口は1つのほうがよい。
 *大会の成否は,結局,参加した会員,企業がどれだけの利益を得たかによって決まる(ポジティブ面の評価が大切である)。
 *経済的支援をした企業側からすると,今回の大会形式において従来よりも多くの講演を聞き,従来よりも多くの人と会うことができたというメリットがあった。

 経理

 *大会という新しい試みで参加者数が読めないこと,会期が長く会場費等が嵩むことに加えて,過去の学会総会の財政が苦しかったとの情報もあり,かなり強引に寄付活動をせざるを得なかったが,寄付を求められる側からすると,しつこいという感情を抱いたり,大会の台所事情を不安視する声が出たりした。
 *全般的に大会はスムーズに運び,企業側の厚意と関係者の協力によって予算的には満足のいく結果となった。とくに財務委員会が作成した寄付依頼のための詳細な資料(企業一覧)は役に立った。
 *商品展示会場は広く,コマ数が過去最大で,活気があった。ポスター発表会場や大会受付窓口を効果的に配置したことで,商品展示場への人の流れもよく盛会で安心した。
 *商品展示場を業種別にしたことはやむを得ない事情であったが,もうひと工夫が必要と思われた。
 *学会以外の団体の会員にとって参加費は高すぎたかもしれない。しかし,大会の規模を考えれば妥当といえる。l万円以下なら問題はないと思う。
 *企業では予算に合わせて参加人数を調整するので,参加費の高低はあまり問題としない。
 *招待者の数が予想外に多く予算軽減の視点から減らすことが望まれたが,招待状は大会スポンサーに感謝の気持ちを差出すもので減らすわけにはいかない。企業側としては,聞きたい講演もあって招待状は有難い。
 *むしろ,器材展示企業側からは,一律に1企業1名招待でなくコマ数に応じて増やしてほしいという意見が出ている。招待状は,展示企業も大会に参加しているという実感が得られるので,気持ちよく出して頂きたい。
 *学会と実技協からの補助金は,会場予約等の開催準備の仮渡金的な性格のもので,剰余金を返すのは当然だろうか。
 *実技協の総会運営は,参加費,本部からの総会運営費,器材展示および広告掲載費等でまかなっているが,会計上の黒字が出た場合は本部からの総会運営費は返還することが多い。
 *実器協では,会員から集めてお金が余ればコマ数に応じて返している。
 *大会余剰金は補助金を支出した学会と実技協に返還(比率については大会長判断)することで共催7団体の合意が出来ているが,赤字になった場合は大会長負担ということでは,今回のような大規模な大会(多額の赤字が生じる可能性あり)の引受け手が減るのではないか。
 *実験動物関連の過去の集会で赤字になった例はないので,その点を心配する必要はない(赤字になったとき皆で考えればよい)。

開催

 *折角の共催形式であるのに,諸団体による合同企画が少なかったことは残念である。例えば,モデル学会と学会学術集会のシンポジウムは疾患モデルというテーマで纏められたかもしれない。
 *学会では従来の学会総会形式しか考えていなかったので,学術集会について合同企画を考慮していなかった(趣旨の啓蒙不足である)。
 *企画の段階で各団体の特別企画の提案が多く時間的に余裕がなかったが,結果として実技協では特別講演等が行えたのではないか。
 *50周年史の資料展示は,諸団体の合同企画ということで事前アンケート等で企画を練り上げてきたが,学会50周年記念事業との兼合いで内容を限定したパネルに止めた。なお,当該資料は,民間企業と提携し最新情報を盛込むなどして内容を充実しつつ,ホームページ上に保存する。
 *ウェルカムパーティから正規の懇親会までパーティが多すぎたという見方もあるが,いずれの会も盛り上がっていてよかった。それぞれのパーティは,5日間という会期のよい繋ぎの役目を果たした。
 *5日という会期のため,職場を実質的に1週間離れることに対する懸念があったが,それほどの支障はなかった。
 *大会の規模を考えれば,5日という開催日数は許容範囲である。期間が3日であっても5日であっても,途中で帰る人は帰る。
 *企業からの参加者はいくつかのグループに分けて参加しており,5日間をすべて通して出席しているわけではない。うまくやり繰りしている。
 *5日という会期が長すぎて展示会場の中だるみの心配があったが,最後まで盛り上がりが保たれた。
 *横浜は遠いという指摘もあったが,東京駅や羽田空港からの移動にそう時間が取られることもなく,中華街や観光地もあり,5日間という開催日数を長く感じなかった。
 *大会開催地として問題はない。中途半端な東京近県で開催するよりもずっとよい。大会を(会場費が高い)都心でやるという考えを捨てるか,再検討すべきである。
 *大学のキャンパスは使えないかという意見があるが,大学は授業がある時期に借用できず,たとえば学会経理承認等の会務総会(年度交代3か月以内開催)を別途に行わない限り難しい。
 *口頭発表プログラムは,原則として演題申込者の所属団体別に構成した(ポスターセッションは混ぜた)が,内容によって割振るべきとの考えもある。
 *他団体の会員の意見を聞くことができるので横断的プログラム構成がよい。組織の独自性を際立たせる方策は今後探っていけばよい。
 *環境研のような小さな組織では,大きな発表の場が与えられるという意味で,むしろプログラムは内容別に構成することを歓迎する。
 *LEC研のような組織では,内容別形式を採ると会の存続(独自性)に関わることになりかねない。
 *ある分野については組織別構成も必要かもしれないが,それはケースバイケースで考えればよい。
 *7団体共催のためにプログラムを詰込み過ぎたきらいがある。例えば会務総会とシンポジウムを同時進行させるわけにいかず,とくに一般演題を2日間に集中させてしまいゆとりがなかった,
 *聞きたい講演が聞けないという批判を避けるため,一般演題やシンポジウムの会場は2つに絞るべきだったのではないかという意見に対し,2つだけだと両方とも興味がない場合に暇をもて遊ぶというデメリットも考えもある。
 *従来の学会,実技協,その他の組織のそれに比べて講演原稿の締切りが早すぎたという指摘もあったが,どんなに遅くしても期限を守らない人がいるから,とくに早すぎたということはない。
 *ネット申込みへの書込みがやりづらいという声もあったが,次第に改善されていくと思われる。また,ネット申込みに関して,レイアウトのイメージを見ることができて修正も効く形式が望ましい。
 *予算的逼迫の心配があり,また実技協等の組織での慣例もあり,会場係をボランテアとして依頼したが,すべてを外部委託すべきとの意見もあった。そのことと関連して,前日ないし当日になって会場係を依頼された方,高齢(老眼?)の方にスライド係を依頼したり,配置人数に余裕が足りない等の批判もあった。
 *この他にも,大会案内や招待状の送付や受付窓口の対応に多少のトラブルがあったようであるが,全般的に問題は少なかった。

〔D〕まとめ

 日動協会報に書いたように,私は今回の大会は成功と確信している。聞く限りでは,今回の大会方式は,実験動物界の求心力と活力をますます高めるためにきわめて有効との意見が圧倒的に強い。しかし,この方式を定着させるためには解決すべき問題も多く,別の形式を検討してみる必要もあろう。要は継続的努力である。
 実験動物界の各組織は原則的に対等であるが,現実には学会と実技協が両輪であることは間違いなく,この両団体が自己の組織の都合よりもわが国の実験動物界のためという共催の趣旨を優先させる度量が求められる。
 マイナス要因を数え上げて,その解決法を模索することなく大会開催の芽を潰すようなことは,わが国の実験動物界に身を置く者の採るべき態度ではない。幸い,平成14年度学会総会の西村会長も平成15年度学会総会の米田会長も,そして,実技協の大和田理事長も大会形式に賛同されておられるので,実験動物界の協力体制は一歩ずつ進むと私は楽観している。


表1 大会協力者一覧(敬称、所属略)

(A)開催準備会
安居院高志、上松嘉男、市川哲男、伊藤勇夫、井上 達、岩城隆昌、浦野 徹、大島誠之助、大和田一雄、小原喜代三、笠井憲雪、木内吉寛、日蜷ュ彦、久原孝俊、米田嘉重郎、三枝順三、佐藤善一、佐藤 浩、下田耕治、朱宮正剛、須崎徹次、高木博義、高橋和明、瀧澤芳夫、仲間一雅、原 清、日置恭司、藤原公策、降矢 強、堀 弘義 、前島一淑、光岡知足、八神健一、渡邊一彦

(B)企画委員会
三枝順三(委員長)、市川哲男、浦野 徹、大和田一雄、米田嘉重郎、佐藤善一、下田耕二、朱宮正剛、瀧澤芳夫、日置恭司、前島一淑、横田節子

(C)財務委員会
日蜷ュ彦(委員長)、佐藤善一、三枝順三

(D)プログラム委員会
木内吉寛(委員長)、市川哲男、伊藤 守、久和 茂、斎藤 徹、三枝順三、朱宮正剛、杉山文博、瀧澤芳夫、局 博一、中山裕之、日置恭司、松田潤一郎、

(E)展示小委員会
日蜷ュ彦(委員長)、佐藤善一、鈴木照雄、高木博義、瀧澤芳夫、原 清、堀 弘義、

(F)50年史小委員会
朱宮正剛(委員長)、朝倉康之、鍵山直子、下田耕二、田中 慎、夏目克彦、日置恭司、

(G)アジア小委員会
浅野敏彦(委員長)、伊藤登志雄、市川哲男、笠井憲雪、加藤秀樹、日蜷ュ彦、佐藤善一

(H)会場係
秋元敏雄、有川二郎、安藤隆一郎、石原智明、磯貝 浩、伊藤勇夫、伊東久男、岩城隆昌、内山秀和、浦野 徹、大杉剛生、大道佳世、片平清昭、川本英一、木内吉寛、喜多正和、久原孝俊、斉藤 徹、佐加良英治、七戸和博、篠田 扶、柴原壽行、島崎明子、下田耕治、仲間一雅、袴田陽二、林 一彦、古館専一、町井研士、三好一郎、山本 博、劉 艶美、
畔上二郎、稲葉守彦、鵜飼 学、内田忠義、大塚 純、小田晃司、加藤めぐみ、上條信一、川幡まり子、小金澤美紀、小林岳史、佐竹聖人、須崎徹次、須田昌憲、瀧澤芳夫、塚田隆治、西山 勤、日置恭司、丸山内一郎、森村栄一