実験動物施設の歴史

1) 実験動物科学技術研究の夜明け前の代表的施設(1868〜1926)

◎1 北里研究所の実験動物室
北里柴三郎はコッホ研究所を年頭に置いて、大正4年11月に木造二階建(1495坪余)の研究所を芝区白金三光町に建設したものであり、ドイツ風の近世様式である。現在、犬山の明治村に移築され保存されている。平面型は「日」字形で本館・附属館とも南廊下で実験のため北側光線を取り入れている。動物室は北西部コーナーに第一動物舎、その奥に別棟で第二動物舎、第三動物舎が見られる。

2) 実験動物科学技術研究の夜明けの代表的施設(1927〜1949)

◎2 東京帝国大学医学部教室、研究室、実験室の動物実験小屋
1931年(昭和6年)4階建、延床面積約9000u(2728坪)の鉄骨鉄筋コンクリート造である。ドライエリアの四隅に動物実験施設がコンクリート作られ鉄網張りの動物運動場がもうけられていた。

◎3 佐々木研究所(神田駿河台)の3階の動物室
1938年(昭和13年)3階建、延床面積約685u(207坪)の鉄筋コンクリート造である。最上階3階の東南に面した、衛生管理上日照通風を良くし、かつ壁面を多く残すように工夫し、洗浄室を大きく取り使いやすい。床は防水し、排水口を設け水洗いに便利のようになっている。

3) 実験動物科学技術研究の近代化運動時の代表的施設(1950〜1959)

◎4 実験動物中央研究所

◎5 名古屋大学農学部畜産学科家畜育種学教室 実験動物飼育室
飼育室の建物はもとの銃器虚で、内部は2部に分かれ、一方は薬品置き場、他の1室(7、200m×9、000m)が実験動物飼育室に使用されている。保温設備はない、冬の温度は5〜10℃で、最低3℃までさがることもある。実験動物はラット、モルモット、ウサギは同居で、マウス室(2,700m×9,000m)はケイジ300箱を収容してある。日本在来のマウスの系統保存と育成を行い、同時にそれに必要な遺伝学の研究が行われている。

○  科学技術放射線医学内部被曝実験研究棟

4) 実験動物科学技術研究の誕生時の代表的施設(1960〜1969)

◎6 国立公衆衛生院SPF動物実験施設
国立研究機関として初めに建設されたパイロットプラント的SPF動物実験施設である。微生物制御として、人、物、動物の動線を一方向に規制し、清浄区域、汚染区域を分け差圧管理を行う。動物種は無菌・ノートバイオート,SPFマウス(ヌードマウス)、SPFラットである。無菌・ノートバイオートの飼育、繁殖、実験や感染動物の飼育観察はビニールアイソレータ内で行い、SPFマウスの繁殖はラミナーフロー方式の動物飼育棚を用いた。動物室内の温度条件は22℃±2℃、55%±5%で換気回数14.5〜26回/時間である。バリア維持のためのGermicidalTrapを多用している。
  日本クレア高槻生育所
  大阪大微生物病研究所動物実験施設

5) 実験動物科学技術研究の学術的発展T時の代表的施設(1970〜1979)

○  東京大学医学部付属動物実験施設

○  日本化薬安全性研究所

○  山之内安全性研究所

◎ 7 国立公害研究所動物実験施設
1975年(昭和50年)、7階建、延べ床面積5,186u(1569坪)鉄筋コンクリート造、人、もの、動物の動線を明確にし、清浄エレベータ、汚染エレベータ両端に配し清浄空間汚染空間を明確にしている。洗浄室を二階にまとめ、1階をサルエリヤ、検疫エリヤ、二階の一部を犬のエリアとしている。3階をインハレーション実験用機械室とし、4階、5階にインハレーション実験室を配し、6階はSPF動物を飼育するスペースとし、最上階7階は空調室となっている。

○  残留農薬研究所

6) 実験動物科学技術研究の学術的発展U時の代表的施設(1980〜1989)

○  エーザイ安全性研究所

◎8 日本バイオアッセイ研究センター
  1982年(昭和57年)、4階建、延べ床面積18,110u(5、478坪)鉄筋コンクリート造、長期毒性吸入実験を年間10物質試験可能な巨大な施設である。およそ100M四方の建物で、平面型は昆虫形態を思わせる。ケミカルハザードとバイオハザードの組み合わせによるバリヤを形成している。人、物、動物の動線分離のために実験者は上部の2階の更衣室から1階に降りて動物飼育室に入る。

○  麻布獣医学園動物実験施設

7) 実験動物科学技術研究の学術的発展V時の代表的施設(1990〜1999)
 熊本大学動物資源開発研究センター
  昨今、遺伝子改変動物の登場により実験動物分野は大きな転換期を迎えている。最近の医学生物学研究において、新しい実験動物(トランスジェニック動物、ノックアウト動物、ランダムミーユタジェネシスによるモデル動物など)の開発、維持、供給、が要求されてきている。ヒトゲノム解析のプロジェクトが進行し、21世紀初頭には総てのゲノム遺伝子構造が明らかにされようとしている。一方遺伝子構造のみでは遺伝子機能は不明であること、遺伝子異常がなぜ病気を引き起こすのか、そのメカニズムが細胞レベルでは解明できない。それは固体を用いることで光が見えてくる。しかも哺乳類での解析が重要になってきているのである。
 遺伝子改変動物の作製には顕微鏡下での高度な操作が必要で、継続的に長時間を要する。
設備的にはマイクロマニュピレーターとクリーンブースを必要とする。遺伝子改変マウスは交配と飼育が必須条件となるため動物実験施設がかなりのスペースを占有する。現在遺伝子破壊動物は約一千系統ほど作製されている。将来は少なくとも10万系統になると見込まれていて、膨大な施設と研究者が必要となるのである。欧米諸国ではかなり先端を走っている。わが国でも遅まきながら学術審議会の学術資料部会から報告書が提出されている。それは遺伝子改変マウスの作成、保存、供給、データーベースの構築と研究開発、それに研究開発支援技術を提供できるセンターを日本国内に数ヶ所設置すべきとされている。現在計画が着々と進められているのが東京大学医科学研究所ヒト疾患モデル研究センターと熊本大学動物資源開発センターなどである。熊本大のセンターは病態遺伝分野、技術開発分野、資源開発分野の3部門からなり、施設規模は4万匹の遺伝子改変マウスの飼育設備を有した8千5百uの新しい施設である。

○  ブリストルマイヤースクイブ厚木研究所

○  バイエル薬品京都中央研究所実験動物棟
  

○  武田薬品生物研究棟

遺伝子改変マウスを利用する分野として脳科学研究がある。21世紀は脳科学の時代と言われている。今後多くの未知分野の解明が待ち望まれる研究領域である。脳の老化防止、パーキンソン病やアルツハイマ‐病などの発症機構の解明・治療・予防、脳の神経回路を真似たコンピューターやロボットの開発などが期待されている。米国においては国家規模で脳科学研究が推進されている。ヨーロッパでも同様な動きが見られる。

  医薬品分野での最近の実験動物施設として武田薬品の実験動物施設がある。完全なバリヤを形成し、しかもエネルギーを大量に消費する空調システムは省エネを考慮したものである。動物はクリ―ン度が維持され、飼育室で作業する研究者は快適に作業できるように計画されている。機能や運用上の特徴を列記すると次のようになる。
1) ヒト・モノの動線がシンプルで明確である。2)動物の飼育ケージサイズはGuide for the Care and Use LaboratoryAnimals(1996)(Institute of Laboratory
 Animal Resources発行)準拠してこの指針を満たしている。3)室内の換気回数は十回程度であるが、飼育器周辺はHEPAを天井全面に取り付け一方向層流をなし100回程度の換気を行っている。4)飼育室の排気グリル内部にハニカム活性炭を装着して脱臭を行っている。5)気流は清浄廊下が最も高く,次に動物室、汚染廊下、一般エリアの順になっている。6)空調・照明は監視室でモニターされ一定基準内を逸脱すると警報が鳴って知らされる。7)IDカード情報をカードリダーによって入退室管理を行っている。そして入室すると殺菌灯が消灯し、入室区域内の照明が点灯する.8)洗浄水は濾過滅菌工業用水を利用している。
 以上、最近では実験動物施設はGLP適合性の高い水準を維持して、ヒト,動物、環境への配慮がなされている。また6〜9階建の高層化された実験動物施設が増加している。平面的には、汚染廊下、清浄廊下を短くして動線の短縮,全体面積を縮小する努力が払われていて、かつ使いやすい施設となっている。

◎9 理化学研究所脳科学綜合研究センター(和光市)
わが国では1997年の理化学研究所内に脳科学研究センターが設立され,世紀の変わり目に相応しい巨大プロジェクトとして,現存の一万uに加えて3万uが建設された。研究者500人の規模の研究機関である。その中の動物実験施設については、約10万匹のマウスと4千匹のラットを収容する最新式の飼育機器(各ケイジ内に新鮮空気.飲料水を個別に入れたミニエンバイロメントシステム)を導入している。
 施設のコンセプトは次の通りである。
1)遺伝子操作を行った動物を扱うので,動物の授受に伴う感染防止に重点を置いた飼育システムの採用。2)臭気・アレルギー対策を考慮したシステムとする。3)省力化のため自動給水システムとする。4)飼育環境監視システムとする。5)動物実験施設内で実験可能とする。以上5項目をクリヤーするためにミニエンバイロメントシステムが見事に構築されている。ケージ単位で独立してバリヤが構築されている。ラック上部に取り付けられた強制給排気装置により新鮮空気を直接ケイジ内に供給し,自動的に排気される仕組みを備えている。臭気やアレルゲンは接続されている排気管により室外に排出される。もちろん動物の飲料水は細菌,微粒子,パイロジェン,無機質、有機質など、実験に影響を及ぼすモノを除去したRO水を供給している。監視システムとして給排気ブロアーユニット運転状況や自動給水の水圧異常、水漏れを中央監視でコンピューター化して処理している。

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Last update: 2001.05.21